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仕事に没頭した彼が洞察する時の鋭い目つき、
乱れのなくバックにホールドし整えられた髪、
やわらかな色合いの胸元のネクタイ、
三つ揃いのベストの下に仕込まれたトリガーが垣間見える瞬間、
側近として取り立てられるようになってからは、否が応でもありとあらゆる彼の些細なことに触れる機会も多くなった。
語学力や射撃の腕前など、確かに自分はそれ相応の知識や器量を持ち合わせていたのかも知れないが、同じような実力を持つ者は他にいくらでもいたはずだ。それなのに頭領白夜は自分を一番の側近として選び、行動を共にさせたのだ。
『お前の穏やかさが忙しない日常を潤してくれるんだ』
そんな光栄な褒め言葉も、甘やかに聞こえてしまう自身が恨めしかった。鋭い目つきの普段からは想像もつかないような、屈託のない笑顔で笑う一面などを目前にさせられればドキリと胸が鳴った。
いい加減マズイと思い始めていた。
このまま傍にいれば、留まるところを知らずに激しい想いが募りそうで怖かった。白夜から香港行きの話を持ちかけられたのはそんな折だ。
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