下克上のNOIR13

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「当座のところ香港に潜伏することになると思う。向こうへ行ったらしばらくは掛かる。半年……いや、一年か」 「何故だ? お前が出向かなきゃならない程なのか? 誰か信頼できる者に偵察をさせるなりしてもいいのでは?」 「重要な仕事だ。俺自身が直接行った方が話が早いだろう。だからお前にも一緒に来て欲しいんだ。冷静でカンのいいお前の力が必要だ」  熱っぽい目でそう打診されて、確信した。  今は淡く(くすぶ)るこの想いが、いつかは激しく燃え上がり行き場を失って破裂してしまうだろう。  冷静でカンのいい、だなんて大嘘の作り物だ。見掛け倒しだ。  表面は穏やかそうに見えても、心の中はドロドロに渦巻く溶岩のように熱くてややこしい想いが巣食っている。焦れて求めてみっともないくらいに燃え上がるこの恋心を気付かれたならば、これまでの信頼関係も呆気なく崩れ去るだろう。頭領と側近という関係さえも失くしてしまうかも知れない。 「いいや……僕は残るよ。残って……お前の留守を守っていくのも大事だろう?」  最もな理由でこじつけて香港渡航を断ったのは、一年程前のことだ。  任務を終えて戻ってきた彼を忠実な腹心として迎えよう、そう決めていたはずだった。だが一目その姿を目にすれば、そんな覚悟は脆くも崩れて飛んだ。
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