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長身の逞しい肩幅が目に眩しい、
墨色の三つ揃いの裾が風に揺れて翻っただけで、
長い指先に挟まれた煙草にドキリと胸が鳴りそれが口元へと運ばれて、薄く開いた唇が銜え込む瞬間には、その触れたフィルターにさえ激しく嫉妬し動揺させられるなどと誰が想像し得ただろう。そして以前と少しも変わることのない屈託のない笑顔で微笑まれ、名前を呼ばれたりしたならもう限界だ。立っていることさえおぼつかなくなる。
「今日は祝杯だ。お前の為に宴を用意したよ? 久し振りの本拠地で任務解放の醍醐味を味わってくれ」
もっともらしいセリフで帰還を労うフリをしてみたが、案の定、この恋心は堪え性が足りないらしい。離れていた一年間の、封じ込めてきた想いが一気に溢れ出し、平静さを演じ続ける許容量など一瞬で超えてしまった。
そんな想いを持て余し、宴たけなわに任せてこっそりと会場を抜け出した。
傍に寄るだけで高鳴り出す心臓音を抑え切れない、
彼の一挙一動を目にするだけで、
低くて独特の癖のある話し方を耳にするだけで、頭がどうにかなりそうだった。ドクドクと血脈が疼き出し、全身を欲情が這いずり回る。頬が熱を持ち、身体の中心が熱くなり、今にも叫び声をあげてしまいそうなくらいだ。狂おしい想いに理由のない涙までもが溢れ出しそうで苦しかった。
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