雨嵐花

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 葉月も半ば。それなのに、(からだ)と気持ちに幾許か、水を含んで冷えていた。備え付けの暖炉に、紙くずと小枝を落とし、それに幾度と石を打ち付ければ、ちりちりと焦げ、ゆっくりと白い煙が細く揺蕩(たゆた)う。そこに湿気かけた燃料を焚べ、なんとかそれは金色に揺られる炎となる。  墓地は山奥にあり、私は墓地の直ぐ側にある、誰も居ぬ山小屋にて雨が止むのを待った。生乾く自臭とどくだみの香が混じり合い、酷い匂いが鼻を衝く。女である私は、それが不快であった。  窓の外には雨嵐花(うらんばな)。数多の未練を吸い上げて、妬みの花を可憐に咲かす。 ――お前も可哀想な花。  薙ぐように吹き散らかす強い風。それに晒された小さな花を、自分に見立てては刹那くなる。私は此処(ここ)に何をしにきたか。此処(ここ)に足が向くまでに、薄情にも十年(ととせ)も掛かってしまった。  私は鞄から、墓前に供える筈だった一升瓶を出し、瓶の中身を水筒の蓋と、別に用意していた檜の枡に注いだ。友と飲み交わす為に、持ってきたものである。  友は私を恨んでいるであろうか。
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