水と一緒に温めて

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 そんな日にはお湯をたっぷり溜めて、 ほかほかの浴室で湯船につかる。  そうしていつの間にか、手間を面倒に思うことも、妙な罪悪感もなくなっていた。    今じゃすっかり、ただの風呂好きだな。  似合わないと自分でも分かる可愛らしいパッケージの入浴剤を三つ。右手に持って、俺は苦笑した。  さてどれを使うか。  知人から大量にもらったというこれらを後輩が会社で配り歩いたのは、つい数時間前のこと。後輩には感謝するが、しかしこれは多分、女性をターゲットとした商品だろう。  できたら感想くださいね。そう言い残されたことを思い出して、それについてはあとで代役を求めることに決めた。 「おとうさんひとりでわらってるうー。へんなのー」 「なんだってー?」  脱衣所の引き戸から顔をのぞかせた小さな身体を片腕で持ち上げてくすぐると、いたずらな声はすぐにきゃあきゃあと笑った。 「一緒に入るか」 「えー、やだー」 「ええ?」  反抗期、早すぎないか? 「(こう)、着替え持ってきなさい」 「はーい」  下ろした途端にぱたぱたと駆け出していく晃と入れ替わりに、花南(かな)が顔を出す。 「お父さんのお風呂、長すぎて飽きちゃうんだって」 「長くないよ」 「晃には長いのよ」  大きくなり始めたお腹をさすって笑う花南に、それもそうか、と俺はうなった。 「晃だけ先に出すか‥‥‥」 「それも嫌なんだって」 「我儘だな」 「一緒にいたいのよ」 「――我儘だなあ」 「ねえ」   二人で顔を見合わせて笑っていると 「おとーさんはいろー!」 もう前言を撤回、いや、口にしたことさえ忘れているのだろう張り切った声が飛んでくる。  遅れて登場した声の主は、お気に入りのパジャマを掲げて花南に褒めてもらってから、やっと服を脱ぎ始めた。 「じゃあよろしく」 「うん」  花南が小さく手を振って、脱衣所のドアを閉める。  向き直ると、脱ぎ散らかした服をかき集めて洗濯籠に運ぶ小さな息子。  ――そのうち分かるよ。 「なにー?」  思わずこぼれた呟きの端を拾って、晃がお風呂の入り口で振り返る。 「何でもないよ」  入浴剤の一つを晃に渡すと、目を輝かせて両手で袋を受け取った。  お父さんの、風呂が長い理由。  きっとそのうち、晃にも分かる日がくる。 「はやくー!」 「はいはい」  家中に聞こえそうな大声に俺は笑って、風呂場へ足を踏み入れた。
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