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日が傾き川面がキラキラ眩しい。
僕たちは川沿いのベンチで、お互い何を話すわけでもなく寄り添って座っていた。
僕はこの何でもない時間がとても幸せだった。そしてふと彼女の顔をみると。
彼女は目に涙を浮かべていた。
突然のことに、理解ができず動揺した。
「どうしたの?なにかあった?」
なるべく優しく声をかけたが、彼女は何も言わず、余計に涙が溢れ出ていた。
沈黙が続き、僕には彼女の涙の理由のおおよその察しはついていた。ここで彼女が口を開いたら、二人の関係もここで終わってしまうことも。
ぼくは黙っていたかった。黙ってそっと彼女を抱きしめてあげたかった。
けれど、ここで無かったことにしても、いずれは同じ時が来ることは分かっていた。
以前も同じような事があったから。
僕たちは、お互いの両親に付き合うことを反対されていた。それでも、乗り越えられると思ったんだ。僕たち二人の意志が強ければ。
とくに彼女の親は、僕の存在を知ってから、彼女の行動を逐一見張るようになり、会ったことが知れると僕の悪口を永遠聞かされていたようだ。
僕自信否定されるのは耐えられる、なんとかできると励ましてきたが、彼女はもう頑張れないようだ。
彼女は家族と仲が良かった。それなのに彼女は、以前同じような事があったとき
「もし…頑張って頑張って頑張り抜いても理解してもらえなかったら、その時は私はあなたを選ぶ」
と言った。若さと、恋に溺れているのだろうか?大切な家族を捨てて僕を選ぶと言ったんだ。
その時、嬉しかったけど、僕はそれは違うとキッパリ言った。
本当の幸せのために、二人で頑張って認めてもらおう、と。彼女は僕の言ったとおりに、どちらも大切にしようと努力した。
今、僕はあの時の言葉を取り消したい。
僕の前から消えないでほしい。僕を選んでほしい。
本心ではそう思っているのに、僕の口から出たのは僕を裏切る言葉だった。
「じゃあ、別れようか」
彼女はごくわずかに頷いた。
そして桜の木の下を去っていった。
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