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一瞬、眼の前がぱっと明るくなったのがものすごく恥ずかしかった。人の不幸をよろこんだりしちゃいけないのだ。僕はどっちの気持ちもぐっと抑えて、目を固く閉じた。
それをどう誤解したのか、実に切ない声で舞歌は頼んできた。
「代役やって」
「誰の?」
だいたい分かっていたけど、いきなり断るのも何なので、一応は聞いてみた。
「だから都筑君」
1年先輩を「くん」づけかよと思ったけど、そんなことは理由にできない。頭悪いなりに、遠回しな断り方を考えてみた。
「他にいないの?」
「人数ギリギリ」
人のことは言えないけど、僕から見ても計画性がまるでない。ついツッコんでしまった。
「だから何でそんな台本を」
「ごめん、書いたのあたし」
1年で書いた台本をやらせてもらえるっていうのが世間相場としてどうなのかはよく分からないけど、舞歌はやっぱり頭いいんだと思った。
そういえば、昔から女優になりたいとか映画監督になるとか言ってたような気がする。聞き流していたからよく覚えていないけど、あれは本気だったらしい。
そう思うと、知らん顔をしてたのも済まない気がして、代役も断れなくなってしまった。
「何の役?」
「主役」
それなら話は別だった。無理なものは無理だ。
「じゃあ他の人に……」
断りの一言を、舞歌は最後まで言わせなかった。
「こんなこと頼めるの、朔しかいない」
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