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確かにそうだろうと思った。僕はあまり賢いほうじゃないけど、こんなことは普通、言えない。だから、周りがうるさいのをいいことに、ついぼやいてしまった。
「要するに便利なやつ?」
舞歌は即座に小首をかしげた。
「何? よく聞こえなかった」
本当かどうかは分からない。でも、ごまかすほうが無難だった。
「何でもない」
それがなぜか、OKの返事になったらしい。
「ありがと、好きよ、朔」
はしゃぐ舞歌の一言にドキっとはしたが、こればっかりはそう簡単に聞くわけにはいかなかった。
「まだ何にも言ってないけど」
「やってくれるよね」
「いや、でも」
必死で主張するNOは、舞歌の耳には届かなかったらしい。満面の笑顔で、とどめの一言が来た。
「ダメ?」
もう、逃げ道はなかった。彼氏持ちの幼馴染にひざまずけと、心の奥で叫ぶ声が聞こえるような気がした。
「……やる」
あとはかわいらしい手に腕をつかまれて、部室まで引きずられていくしかなかった。
「というわけで代役頼んできました!」
ドアを開けた舞歌の報告に応じるハイテンションの歓迎は、僕にとってはもう、イジメでしかない。それでも蚊の鳴くような声で、最後の抵抗を試してはみた。
「まあ、夏休みまでなら」
一応は聞いてくれていたらしく、答える声はうるさいながらも優しかった。
「気に入ったらずっといてね」
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