執行

5/8
前へ
/118ページ
次へ
 浅川は、私がナイフを握りしめたことを確認してから、その冷めた視線を金崎に向けた。 「疑死反応って、知ってるかしら」 「な、何を言って、て、る」  金崎の痛みも限界に来ているようだ。  でも、この程度じゃ終わらせない。 「女はね、恐怖へのストレスがピークに達すると、動けなくなるの。動物で言うところの、死んだふり状態ね」  浅川は立ち上がり、テーブルの上にある電気ポットの電源を入れながら言った。 「それを勘違いして、あんたのような男は例外なく言うのよね。『抵抗しなかった。だから、あれは合意だった』と」 「そんな訳ないだろ!」  そう怒鳴ったのは私だ。  浅川の言葉が、金崎のあの行為と重なり、私はナイフを振り上げた。  咄嗟に金崎が右手で払おうとする。  その手を避けて、私はもう一度左もものナイフの柄を叩いた。  落ち着きかけた痛みが蘇り、金崎は今度は後に倒れ込んだ。 「あぁああぁっ・・・・・・」  最後の方は、最早かすれ声だ。叫び声をあげすぎたのだろう。  そのまま金崎の腹に馬乗りになり、ナイフの先を金崎の左目の前で止めた。  痛みと恐怖で、金崎の全身が震えているのが、馬乗りになっている私の太ももにまで伝わってくる。  それが気持ち悪くなって、私は一度立ち上がると、金崎の左手のひらを、かかとでおもいきり踏みつけた。 「!!!」  もう、声も出しきったのか、最早金崎の喉からは、空気が通る音だけしか出てこない。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加