執行

1/8
前へ
/118ページ
次へ

執行

 完全に私を支配していると思い込んでいる金崎は、一心不乱に私に吸い付いている。  私は目を閉じて、その時を待っていた。  入り口の方から、扉の閉まる音が、微かに聞こえた。  その後に、注意して聞いていないと聞き取れないほど小さく、絹の擦れるような音がする。  浅川もまた、衣服をそこで脱いでいるからだ。  返り血で、衣類を汚さないために、そこに着衣を置くというのも、浅川の指示だった。だから、私も入り口で脱いだ。  目を開けて待っていると、壁の角から、静かに近付いてくる影が視界に入った。  上になっている金崎は、まだその存在に気付かない。 「ねえ・・・・・・」  突然の背後からの声に、金崎の体が跳ね、そのまま勢いよく上半身を捻って振り向いた。  そのまま金崎は、無言のまま浅川を凝視した。  上目遣いに睨む細い瞳、薄く切れ長の唇。日本人形のように、真っ直ぐに伸びた漆黒の髪。真っ白というよりも、透明に近い肌。触れれば折れそうな細い体。  浅川を知っている私でも、この人は幽霊なのではないかと思ってしまう。  しかし、金崎は恐怖が半分で、残りの半分は、目の前の美しい女体への好奇心のようだったが。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加