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浅川は、私がナイフを握りしめたことを確認してから、その冷めた視線を金崎に向けた。
「疑死反応って、知ってるかしら」
「な、何を言って、て、る」
金崎の痛みも限界に来ているようだ。
でも、この程度じゃ終わらせない。
「女はね、恐怖へのストレスがピークに達すると、動けなくなるの。動物で言うところの、死んだふり状態ね」
浅川は立ち上がり、テーブルの上にある電気ポットの電源を入れながら言った。
「それを勘違いして、あんたのような男は例外なく言うのよね。『抵抗しなかった。だから、あれは合意だった』と」
「そんな訳ないだろ!」
そう怒鳴ったのは私だ。
浅川の言葉が、金崎のあの行為と重なり、私はナイフを振り上げた。
咄嗟に金崎が右手で払おうとする。
その手を避けて、私はもう一度左もものナイフの柄を叩いた。
落ち着きかけた痛みが蘇り、金崎は今度は後に倒れ込んだ。
「あぁああぁっ・・・・・・」
最後の方は、最早かすれ声だ。叫び声をあげすぎたのだろう。
そのまま金崎の腹に馬乗りになり、ナイフの先を金崎の左目の前で止めた。
痛みと恐怖で、金崎の全身が震えているのが、馬乗りになっている私の太ももにまで伝わってくる。
それが気持ち悪くなって、私は一度立ち上がると、金崎の左手のひらを、かかとでおもいきり踏みつけた。
「!!!」
もう、声も出しきったのか、最早金崎の喉からは、空気が通る音だけしか出てこない。
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