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上司の視線を頭に感じ、私は恐る恐る髪に手を当てた。しまった。髪をひっつめていたゴムがいつの間にか無くなっている。入社式に合わせてかけたストレートパーマはかなり落ちていて、今の私は、ほぼアフロだ。
「す、すみません。でも、これは」
私が全てを言う前に、上司は着席するとパソコンの前でキーボードを叩き始めた。私は弁解しようと試みるけれど、上司のキータッチが強すぎて、大縄を飛ぶ時のように、声をかけるタイミングがわからない。私は小声で、すみません、と呟くしかなかった。
その日は、なるべく髪が目立たないように俯きがちに、席も立たずに、やり過ごした。終業すると駆け足で会社を出る。美容院を求めて、私は泣きながら街を彷徨った。オフィス街なので、そうそう美容院は見つからない。ようやく駅前で見つけて飛び込んだのが、神谷さんのお店だった。
「一番強い、ストレートパーマをかけてください」
私が震える声で伝えると、神谷さんは微笑んで私をシャンプー台に促した。
「すみません、シャンプーはいいんです」
私がカット台のほうへ向かおうとすると、神谷さんは困った顔をした。
「申し訳ありません。ゴミが付いているので、シャンプーさせていただきたいのですが」
カット台の鏡を見ると、アフロの上に鳥のフンが付いていた。
踏んだり蹴ったり、とはこのことだ!
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