天パの効能

4/6
前へ
/6ページ
次へ
私は考える気力も無くなり、呆然としたままシャンプー台に横たわった。これから始まるであろう針で突かれるような痛みも、もうどうでも良い。 けれど、アフロが濡らされ、神谷さんの指が侵入して来ても、痛みは襲ってこなかった。それどころか、頭がポカポカ温かくなり、髪だけでなく心までも解れていくようだった。シャンプーが終わる頃には、私はすっかり平常心を取り戻していた。 それ以来、私は神谷さんのシャンプーに絶大な信頼を寄せている。 「思えば、この天パのせいで、しなくていい苦労ばかりしましたよ」 神谷さんの指先が頭頂部に近づいてきた。そろそろシャンプーも佳境だ。 「一番、古い記憶は保育園の頃です」 私の通っていた保育園は、ホールに布団を敷いて昼寝をしていた。私は寝相がすこぶる悪く、自分の布団で起きた試しがなかった。その時々で、右に行ったり、左に行ったりするのだが、私は転がった先の友達のパジャマのボタンを髪の毛に絡ませてしまい、毎回、泣かれていた。卒園間近になると、誰も隣に寝てくれなくなり、一番端のスペースが私の定位置となった。寝入り端、友達たちが楽しそうにヒソヒソ話しているのに、離れている私は参加できず寂しかった。 「次は小学校ですね」     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加