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小学生の頃、私は背が低く、整列の際は前から三番目の順番だった。けれど、私の後ろの子から、私の髪の毛が邪魔して前が見えない、と苦情が出て、私だけ髪の毛込みで並ばされた。もちろん、机は一番、後ろの席だ。本来の背は低いから、背の高い同級生の背中で、なかなか黒板が見えず、いつも身体を斜めに動かしているので、腰を痛めてしまった。
「中学生は悲惨でした」
思春期になると、男子が露骨にからかってきた。あだ名は大仏になり、授業中に私の髪の毛に鉛筆を何本させるか、という遊びが流行し、どさくさに紛れて鉛筆で頭を何度も刺され、痛かった。
「高校は女子高に行きましたけど」
男子のような、露骨な揶揄いはなかったけれど、目立つグループの笑いのネタにされて辛かった。定期的にどうやったら私のような髪型になるか、というお題がクラスメールに回り、化学の実験を失敗する、とか修学旅行先の奈良の鹿に食べさせる、とか上手くもない回答が爆笑をさらっていた。
「結構、エグい経験しているね」
神谷さんの声が、ぎこちなくなる。正直、笑って話せる思い出ではない。当時は辛くて辛くて、何度も坊主になろうか、とか学校をやめようか、とか思考が停止して、ただただ死にたくなる日もあった。けれど、もう終わったことだ。
神谷さんの指先が、私のこめかみを、ぎゅっと押して、離れていった。
「じゃあ、流すね」
シャワーの雨が私の頭に降り注ぐ。泡が首筋から身体をゆっくりと伝って、洗い場の排水溝に消えた。
「ありがとうございます」
振り返ると、神谷さんの肋骨が浮き出た胸板が見えた。
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