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解放されて、まず確認するのは食糧(弁当)の無事。
続いてスマホ。電源が着いたときには、泣くかと思った。
小銭は戸棚の隙間に入り込んでいて、これは...どうしよう。
(あれ、今、何て言った??)
ベットの方に目をやると、ものすごい勢いで土下座された。...担任に。
「ごめんなさい。兄が勘違いしてたみたいで」
心地のいいアルト。初めて耳にした声だが、そこに緊張感はなかった。
カーテンの隙間から真っ白な太ももが視界に飛び込んできて、慌てて逸らした。
「いや...だってあんなメール来たら、どんなに生徒のことを信頼していてもだな...」
説得力は無い。それにしても、今の担任の姿を見たら女子は何て言うんだろう。
タジタジしてるのかわいい?妹思いなのステキ?
イケメンって得な生き物だ。
チッと舌打ちの音がして、カーテンが閉まる。
綺麗な外見には似合わないが、クラスメイトが喜んでいる姿は想像できた。
「えっと、これはどういう...?」
再び眠りについた特待生に代わって、「兄ちゃん」が説明してくれた。
しかし、動揺しているのか話がうまく読み取れない。
「あの、要は...」
二人は、「正真正銘血のつながった兄妹」。
単身赴任先で体調を崩した父親のもとに母親がついて行くことになり、地方に残された妹はシスコンの兄貴が引き取ることになった―――と。
「まあ、そういうことかな...」
今度のテストで赤点回避させてくださいとの頼みは、あっさりと取り下げられたが。
正直そこまで美人に育っているとは思っていなかったために、心配で心配で仕方なかったらしい。必死にお願いして受験を受けさせてもらったそうだが、そこで合格して首席入学って...
(味が濃すぎます...)
「それに、これも何かの縁だろうから、仲良くしてやってよ」
「はあ...」
遠くでチャイムの音。4限目が終わったらしい。
「俺の見解だけど」
「?」
食堂に向かう足音と声が聞こえる。
怪我さえしていなければ、今頃教室で弁当の包みを開けていたのに。週末だから酢の物かよ、と笑っていただろうに。
「斎藤なら上手くやれるって思うし」
自分の言いたいことだけを言って、じゃあお使いよろしくと帰ってしまった。
「あの...」
何のお墨付きですか?
疑問は虚しくも、閉じられたドアに跳ね返された。
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