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タツオには意外だった。サイコの兄・カザンの死後は自分たちのあいだにはもう恋愛関係のような甘さがはいりこむ余裕はないと考えていたのだ。本土防衛決戦も近づきつつある。クニもいう。
「あんな蛇みたいなやつ、サイコにはあわないだろ。だいたいあんなのサイコの趣味じゃない」
サイコは先ほどからずっと黙りこんでいる。タツオは弁明した。
「だけど、うちの逆島家は近衛四家でもなくなったし、ぼくもただの進駐官なんだぞ。うちにはもう金だってないし、ぼくのな将来なんてたかがしれている。それに比べてサイコは東園寺家の当主になるし、間違いなく進駐軍の将官にもなるだろう。ぼくなんて不釣りあいなんだ。サイコの足元にもおよばないよ」
「意気地なし!」
東園寺家のお嬢さまが燃えるような目で、タツオをにらみつけてくる。タツオは言葉に詰まって、ただ異様な熱をもった視線を受けとめるだけだった。
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