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自分たちの店を持つのは当初の予定よりも遅れた。それは資金が思うように貯まらないと言う事もあったが、自分たちの希望に沿う物件を見つける事が中々出来なかったのだ。
立地が良い所は費用が掛かるし、安い所は場所が悪かった。それやこれやで月日が経ってしまった。でもその分、せっせと貯金をしたのだった。
そして、更に遅れる事態が発生した。私たちの間に子供が出来たのだ。結婚して家庭を持ったのだから二人の間に子供が出来るのは当たり前なのだった。そんな事もあの時は失念していた。そんな自分を大間抜けだと思った。
妊娠した事を報告すると、私の父も、彼の両親も大変に喜んでくれた。私にとっては特に父の笑顔を見たのは久しぶりな気がしたので人一倍嬉しかった。
月日が満ちて長男が生まれ、私は母になった。この喜びは言葉では表せない感情だと思った。親から貰ったこの生命(いのち)が次の世代に繋がって行く……この喜びを感じられるのは女の特権だと感じた。そして周りの人が全て祝福してくれた。
この頃、私は仕事を辞めており専業主婦となっていて、毎日の家事と子育てで、あっという間に月日が過ぎて行った。
そんな日々を過ごしていたが、チャンスは意外な所からやって来た。住んでいる部屋の近所にあるパン屋さんが閉店すると言う。美味しいので、良く買いに行っていた店だった。夫婦二人でやっていたのだが、二人とも高齢になって店を続けるのが辛くなって来たので、引退して故郷に帰ると言う事だった。
何時も買いに行っているお店だから店の間取りは判っていた。彼がやりたがっていた定食屋さんには、残念だが少し店が狭かった。調理場も余り広くは無いので店舗の方を広くする事は難しそうだった。居抜きなら格安で譲ってくれると言う事だった。
私は夫に相談した。
「ねえ、あのパン屋さんなんだけど、居抜きなら銀行から余り融資を受けなくても何とかなるのじゃないかしら」
夫も考えていたらしい。こんなチャンスは早々に無いからだ。
「でも定食屋をやるのは無理かな。店の方が少し狭いよね」
やはり夫も私と同じ考えだった。そこで私は以前から考えていた案を口にした。
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