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 それからが大変だった。地元の信用金庫との交渉。でもこれは夫の人脈に随分助けられた。何故なら、夫の友人や先輩にはオーナーシェフが結構居る。その方から金融機関との交渉のやり方を伝受して貰った。皆、開店に際して苦労した人ばかりだからだ。その他にも色々なアドバイスを戴いた。本当にありがたかった。  店舗と土地の譲渡契約。これは地元の不動産屋さんに間に入って貰った。不動産屋さんが言うにはやはり格安なんだそうだ。何もかもが全く初めての事だったが本当に多くの人に助けて貰った。この縁はとてもお金では買えないと思った。  お店の土地は十八坪ほどで、そう広くは無い。二階建てで、下が店舗と調理場。それにトイレと小さな風呂場と三畳ほどの部屋がある。ここは店を見渡せるようになっており、営業時間内は調理場か店に居ない時はここに居る事になるのだろう。二階は六畳が二間と物置に使える小部屋があり、その他には物干しがある。  運転資金を残して貯金の殆どをはたき、信用金庫から借金をして開店にこぎつけた。居抜きとは言え、調理場は少し変えさせて貰った。フライヤーや冷蔵庫、ガス台は新しくした。新しいと言っても、新古品で、最近は飲食不況で開店しても三月と持たない店が多いそうだ。そんな殆ど使われずに閉店となった店から格安で買い取って整備して販売する会社があるのだ。夫はそれを知っていて、自分が開店する時はそこから揃えようと決めていたみたいだった。 「新品より遥かに安いからそこで買おう」  私にそんな事を言って、中古と言う事で心配する私に 「大丈夫。業務用はそんなに簡単に壊れやしないから。それに短いけど保証もあるから」  そう言って私を安心させてくれた。  元がパン屋さんなのでオーブンは元から大きいのが入っていた。これはありがたく使わせて貰った。 「惣菜屋には分不相応だけどな」  夫もそんな事を言って笑っていたが、夫が言うには 「これだけ本格的なストーブがあるならメニューにも幅が出るよ。グラタンやピザ、それに君の好きな鯖だって色々な料理が作れる。それにこれだけ大きいと一度に色々な料理も作れるしな」
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