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 ストーブというのは我々料理をする者がオーブンの事をそう呼ぶのだ。ストーブを見る夫の目は輝いていた。  前のパン屋さんの時と店の外見を大きく違えたのは、店の庇(ひさし)になるテントを真っ赤な色のものに変えたのだ。真っ赤な地にストライプが入っている。  これは遠くからでも目立つようにと思っての事だった。事実、商店街の一番外れだったが、駅を出て歩き始めると遠くに目についた。  開店の準備を着々とこなす。浅草のかっぱ橋で調理道具を買い込んだ。仕入れの為に中古の軽のキャブバンを買った。思えば初めてのマイカーだった。ウチのバンは人も荷物も乗せられる素敵な車だ。  開店を知らせるチラシをネットで作って発注する。本来なら印刷されて来たものを新聞の折込等に頼むのだろうけど、折込の金額が思ったより高かったので、節約の為に自分たちで近所をポスティングするしかないと思っていたら、弟と父、それに夫の友人や兄弟が手伝ってくれた。これは本当に有難かった。  店の名前を『キッチンオシドリ』とした。正直言うと「オシドリ」なんて名乗るのは少し恥ずかしかった。でも夫がこの名前が良いというので譲歩したのだ。 「ねえ、『オシドリ』なんて何か恥ずかしくない?」  私は素直な気持ちを言った。本当は「あなたのお惣菜の店」が良いと思っていたのだ。でも夫は 「夫婦でやるんだから良いじゃないか。事実仲が良いんだからさ」 「え~でも、なんか惚気てる様で恥ずかしい」 「じゃあジャンケンで決めよう。負けたら諦めるよ。その代わり勝ったらこれにするから」 「いいわよ」 そうしてジャンケンをしたのだが、私が負けてしまったのだ。その結果、店の名前は「キッチンオシドリ」に決まった。そして色々な方の手助けを借りて、遂に開店の日を迎えた。
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