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「あ、ありがとうございます!」  本当なら私が気を利かせてお茶を出さねばならない。でも私は、出されたお茶を一口飲むと少し落ち着いた。ドキドキしている自分に気がつく。そこで自分が如何に緊張していたのかが判った。 「今日の『鯖の味噌煮』なんですが、味付けに何か工夫をしましたか?」  今から思えば少しも女子らしくない言い方だったと思う。でも、彼はそんな事を気にせずに 「ああ、あれね。気に入ったの?」 「はい、実は母が生前作ってくれた味にかなり近かったのです。私が作るのと何が違うのだろうかと思いまして」  その通りだった。他に言い方が無かった。彼は私の質問をきちんと聴いてから 「僕の作り方は、湯通しをしないやり方でしてね。味付けした味噌味の調味液を沸かして、その中に鯖の切り身を入れて煮るやり方なんですよ。この方が臭みは消えるし、旨味も逃げませんからね」  母が生前言っていた事と同じ事を口にした。そこまでは私も簡単に想像出来た。訊きたいのはその先なのだ。 「その味噌の味付けなんですが……」  彼は、それを私が口にするのを判っていたようで 「特別なものは入っていませんよ。味噌、これは赤味噌を使わせて貰いました。白味噌を使う人が多いけど、今日みたいに特別に油が乗っている鯖を使う時は赤味噌の方がいいんです。味が負けませんからね。今日は俺の好きな『仙台味噌』を使いました」  ビンゴだと思った。やはり私が食べ慣れた「仙台味噌」だったのだ。母も同じような事を言っていたと思いだした。 「味噌の他にはお酒と味醂。それに生姜と砂糖。本当は味醂を、もっと沢山入れたかったのですが、社員食堂じゃ余り予算がありませんからね」 「それだけですか? 他には……」 「ああ、隠し味で柚子を入れました。これが利くんですよ。鯖と味噌と相性が良いんです」
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