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事実、昼食は何時も一緒にするようになっていて、職場でも噂をされる関係になっていた。そんな時に彼から告白された。
毎日のように、仕事の帰りは一緒だった。帰る方向が同じだったので、何処にも寄らずに帰る時もあったが、お茶を飲んでから帰る時もあった。
その日も、帰りに行きつけの喫茶店に寄って、楽しい会話をしていた時だった。将来の夢を語っていた時に急に真面目な顔になり
「将来の事なんだけど、結婚を前提に交際して欲しい」
そう告白された。この時私は、好意以上の感情を抱いてる事は意識していても、彼と交際をしてるとは思っていなくて、職場の友人の延長だと思っていた。
だけど、彼から真面目に告白されると、いつの間にか彼の存在が自分の中で大きくなっていた事に気がついた。
「ありがとう。うれしい! でも一生の事だから少し考えさせて」
「うん。いい返事待ってるよ」
その日は、それから彼と何を話したか殆ど覚えていない。家に帰ってからもずっと考えていた。父や弟はさぞ不審に思った事だろう。人一倍賑やかな私が黙り込んでいたのだから。
「姉ちゃんおかしいぞ」
普段、ロクに口も利かない弟までもが心配しているし、父も
「具合悪いのか? 熱があるなら寝たほうが良い」
そんな頓珍漢な事を言う始末だった。私はそんな二人に
「ねえ、私がこの家を出たら困る?」
逆に尋ねて見た。そうしたら
「姉ちゃん結婚するのか! 誰かいい人出来たのか?」
そう言って喜んだ。父も
「貰ってくれる人がいる間に嫁に行け」
そう言ってニコニコしている。
「別にそんな訳じゃないけど、どうなの」
もう一度尋ねて見ると二人とも、構わないとの返事だった。弟は
「姉ちゃんが居なくなれば親父と男同士二人でやって行くから大丈夫だよ。俺だって多少も家事は出来るしな」
そう言って胸を張った。父は穏やかな表情で
「母さんが亡くなってから、お前は随分頑張った。これからは自分の幸せを考えた方が良い」
そんな事を言ってくれた。別に特別に母の代りをした訳じゃない。料理でも掃除でも母に近づいたとは思わなかった。考えていたのは『母が生きていたら、どうしただろうか』という事だった。
何をするにも、それが基準だった。
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