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あの桜は
大人なんてどんなものか想像できていなかった。
でも、子どもより自由で、子どもよりいろんな事をできてしまう。そんな存在に見えていたのは確かだった。それは今さら思えば、未来への期待やまだ見ぬ自分への自信だったのかもしれない。あるいは、過去からの脱却、子どもからの脱皮を望んでいたかもしれなかった。
今まで自分を振り払える、そんな力があるんだと、私は大人に期待を抱いていたのかもしれなかった。
しかし、現実は冷酷だ。
子どもより忙しくて、暇もない。元気も日々無くなっていって、自分がなぜ仕事をしているのかさえ最初の理由はずいぶん希薄になってしまっていた。
自然と家から出ることも少なくなっていく。
休みの日は疲れを全力で癒やしたくて、一歩も動きたくなくなる。
でも、そんな自分が嫌になって、どうにかしたくなって。けれど、動けなくて。
ストレスを癒やすはずが返って別のストレスを生むような休暇になることが度々あるようになった。いわゆる、負のスパイラルとやらに嵌まったのだ。
今日も、そんな日だった。
家から出たくない。何もしたくない。明日の仕事を考えて憂鬱になる。
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