■第五章■

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「もしかして、そのトレイの唾液は……?」  中山は藤木のほうに茹(ゆで)蛸(だこ)のような赤い顔を向けて頷いた。 「こちらはどうやら、私の部下が、近藤が使った箸についた唾液を、証拠として保管していた食品トレイにつけたそうです。もちろん上からの指示ですが」 「まさか、そんなものが物証になるのですか?」  中山は缶ビールに軽く口をつけて、頷いた。 「当然のことですが、自白だけでは罪にはなりませんから。もちろん私たちも証言を裏付ける捜査はしましたが、何せ十五年前に起きた事件です。十五年前にしらみつぶしに捜査しても決め手が無かった事件ですし、事件の鍵を握る人物も死んでしまっているので、近藤が犯人だという新たな物証なんか、いくら探してもどこからも出てきませんでした。そうしたら残るはDNA鑑定でしょう。十五年前はそんなものを使って捜査していませんでしたから」  そんなことが許されて良いのか――藤木は憤りを覚えた。強くもないのにビールを半分くらい一気に飲み干した。中山も何も映っていない真っ黒のテレビモニターを眺めて、ビールを口にした。
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