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Y子からの相談を受け、K氏は心の中でほくそえんだ。Y子に執拗と言って良いほどミルクティーを送っていたのは実はこの男だった。恋愛下手で独特な感性を持つ彼は、女性に対するアプローチの仕方がやや屈折していた。
Y子に興味を持った彼はここ数日で彼女をリサーチし、彼女がミルクティー好きであることをつきとめていた。そこで、毎日ミルクティーを送って関心を引こうと考えたわけである。
翌日も、その翌日も、K氏は朝早くに出勤してY子のデスクの上にミルクティーを置いて彼女の反応をうかがった。頃合いをみてカミングアウトしよう。そうすればきっと落ちるはずだ。Y子が気味悪がっているとは知らずに、自分の計画が順調に進んでいると錯覚しているK氏であった。
ある日、Y子が再び相談を持ちかけてきた。
「あの、部長。実は、ミルクティーの他にもコーラが置かれるようになったんですが……」
「コーラだって?」
K氏は驚いた。身に覚えがなかったからだ。
「私が職場に来たとき、ミルクティーとコーラの二つがデスクの上に置いてあったんです」
可笑しい。K氏がY子のデスクの上にミルクティーを置いたときにはコーラは置かれていなかった。ということはK氏がミルクティーを置いてから、何者かがコーラを置いたことになる。
翌日になると、ミルクティー、コーラに加えて緑茶まで置かれるようになった。さらに日が経つと、Y子だけではなく他の職員のデスクの上にまで飲料が注がれた紙コップが多数置かれるようになった。
ある日の会議で、ある職員がこう発言した。
「部長、もうご存知かとは思いますが、最近、何者かがおかしなイタズラをするんです」
「どうにもおかしな状況だ。誰がこんなことをしている? 名乗り出る者はいないかね?」
K氏がこう言っても、誰も名乗り出る者はなかった。K氏はことを荒立てたくはなかったが、他の職員があまりに騒ぎ立てるのでK氏も上司としてなにか対策をとらざるを得ない状況にまで追い込まれた。
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