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一方の矢野はふんわりした白のロングスカートに半袖のボーダーシャツという、シンプルで夏らしいかっこうだった。もともと目鼻立ちがはっきりしているほうなので、化粧っけもあまりない。さらさらした黒髪の先端が彼女の肩をかすめていた。試験終わりに長かった髪をばっさりきったのだ。
矢野はぐるりと辺りを見回した。どこを見ても壁、壁、壁。駐車場をこんなに高い壁で囲う必要があるのかな、と少し疑問に思ったが、乗り物酔いのせいでまともな思考が働かない。すぐにそのことは彼女の頭から忘れ去られた。
一行は、引率者のスタッフによって、トンネルの入り口のような形をした門の前に導かれた。門の見た目はかなりごつく、ライオンが飛びついてもびくともしなさそうな重厚感がある。門の上部――弧になっている部分の上に、ポップな字体のカタカナがアーチ状に列をなしていた。
シンメトリー・プリズン
「シンメトリー・プリズン? 分光でもするんでしょうか」
「それはプリズムだよ、矢野っち。よく見て、『プリズン』でしょ」
「たまごっちみたいに呼ぶのやめてください。むかつきます」
矢野はもう一度門の上の文字を確認した。
「シンメトリー・プリズン。対称的な監獄……でしょうか?」
参加者たちは門を通過した。敷地に入ってすぐ正面には薄汚れたコンクリートの、真四角の建物があった。なんの特徴もない建物で、窓やベランダはなく、確かに牢獄と呼ぶにふさわしい殺伐とした感じが漂っている。
そのプリズンらしき建物の右手はちょっとした広場になっている。白っぽい砂が敷き詰められていて、ぱっと見ると学校のグラウンドのようだ。監獄と広場は相変わらず高い壁で四角く囲われていたが、かっつりと密閉されているわけではなく、門から一番遠い奥側の頂点付近に人が一人通れるくらいの隙間ができている。通路のすぐ近くには電話ボックスのような箱が置かれており、その中には制服を着たスタッフらしき人がいる。高速道路の料金所のように見えなくもない。
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