第一章

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 参加者は、スタッフの誘導のもと、コンクリートでできた真四角の建物の中に入っていった。  入り口から屋内に入るとまず黒い布で覆われた人工の壁が立ちはだかる。お化け屋敷の順路をたどるような気分で、壁に沿って進んでいくと、あるところで視界が開けた。そこは簡単な劇場になっていた。空間の半分がおそらく舞台で、もう半分が大きなひな段になっている。壁と思っていたのはひな段の側面だったようだ。  囚人服のようなしましまの服を着たスタッフたちからパンフレットを受け取ると、参加者たちは詰めてひな段に座った。  おそらく演劇公演を目当てにつくられた施設ではないのだろう。ひな段は平台を積み立てて作られたのか、歩くと多少手作りの音がするし、周囲の照明器具やスピーカーも露出していた。照明器具は工事現場のようにはりめぐらされた銀色の短管パイプにつながっており、その配線も血管のようにあたりをめぐっている。目立たないように工夫はしてあるものの、手作り感は消せていない。もっとも、そのぶん音や光、役者との距離が近くなり、より臨場感を得られるかもしれなかった。  舞台の真上には大きな液晶モニターがあって、まるで映画館の事前広告のように注意事項が無限ループで流れていた。劇団液体ヘリウムのマスコットキャラクター、「ケルビンちゃん」が忙しなく画面内で動き回りながら禁止事項を述べている。どうしてケルビンちゃんがマスコットに採用されたのかはともかくとして、ケルビンちゃんはドラム缶のようなボンベをモチーフにして作られたキャラクターだ。液体ヘリウムを入れるボンベかと思われる。  背後のスピーカーから心地よい音量で流れるクラシック音楽に耳を癒されながら、矢野は配布されたパンフレットに目を通した。やはり監獄もののようで、全体的に牢屋や囚人をモチーフにしたつくりになっている。シンメトリー・プリズンか。どのあたりが対照的なのだろう。
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