第一章

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 そんな折に日向が言った。 「じゃあ終わったら起こしてね」 「え、寝ちゃうんですか?」 「うん」 「この劇、このあとの参加型推理に影響してくるかもしれないですよ?」 「あとで教えてくれればいいだろ」  日向はそう言いつつ、両脚を抱えて体操座りをすると、膝の上に頭を伏せて眠ってしまった。ぼさぼさの頭は寝ぐせがついたままで、膝の上に巨大なウニでも乗っているかのようになる。  会場内に設置された照明器具によって、会場内は夕暮れ時のような薄暗さが保たれている。バックのサウンドも心地よいし、眠くなる気持ちはわからなくもないが、もう少しやる気をみせてくれたっていいじゃないかと矢野は苛立ちを禁じえない。  やがて照明がフェードアウトしてあたりは闇に近づき、それとは反対にサウンドは次第に大きくなって高揚感をあおってくる。劇が始まるのだ。矢野は日向のやる気を引き出すのを諦めて、舞台に目を戻した。  劇の内容を要約すると以下のようになる。  世界的億万長者であり、ミステリを愛する「金賀(かねが)無限(むげん)」は、刺激のない平和な日々に退屈していた。なにかいいヒマつぶしはないかと熟考したすえ、彼は資産家のミステリ愛好家たちに向けた参加型推理イベントを開催することをひらめいた。  彼はまず国から死刑囚を買収し、それらを特別な監獄に閉じ込めた。監獄の中には職員に紛れて殺人者が一人用意されており、金賀自ら考えたというトリックで囚人たちを次々に殺していくのだ。  このゲームへの参加条件は金賀から囚人を購入すること。参加者は死刑囚たちの頭にとりつけられている小型カメラで現場をモニタリングでき、かつ通信機で囚人に指示を出すことが可能となっている。うまく囚人をコマとして扱いつつ、殺人者の正体を暴けばゲームクリア。クリアした者には大金が授与される。反対に自分の囚人がなんらかの理由で行動不能になるか、規則違反を犯して独房に入れられた時点でゲームオーバーだ。クセのある囚人を金や脅しで意のままに操り、いかに自分の手足にできるかが勝負のカギとなる。
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