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本題
ある商人、お金持ちのところに、大変可愛がられている、若だんながいました。箱入り娘ならぬ、箱入り若だんな。商売のことは躾けているが、まあ外に出て怪我してはいけない、風邪を引いてはいけないで、部屋に籠らせっきり。
この若だんな、具合が悪くなってしまいまして、医者に見せたところ。「これは何か、言えない悩みでもあるんじゃないか」と。それを叶えてやれば、元気を取り戻す、と。
「若だんな、若だんな。いかがです、具合は」
「ああ、番頭さんかい、ありがとう。――どうです、お店の方は」
「お店なら心配いらないですよ。若だんなは、ご自分のことだけ心配なさって」
「いいよ、俺なんて。もう、このまま何も叶わないまま……」
「なんです、情けないこと言いなさんな。あれでしょう、外に出たい、とかでしょう。それでしたら、私からおやっさんになんとか言って、ちょっとだけ散歩でもさせてもらえないかって言いますから。若だんなももう、立派になったんです。だから少しくらいなら」
「いいや、そうじゃない。そんなことじゃない」
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