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牛乳を買った後。
コンビニを出て、自分のマンションと反対方向の慶太郎のマンションへ、初めて足を向けた。
緊張と期待と…。
そう、会えるかもしれないと、蓮は期待していた。
周りの騒音がかき消されるほど、心臓の音がうるさかった。
小さく息を吐くと、蓮はそっとエントランスから奥を覗いた。
もちろん、そこには誰もいなかった。
慶太郎も、それ以外の人も、誰一人。
分かっていたことなのに。
予測していたことなのに。
蓮はまた、小さく息を吐くと踵を返した。
ついさっきまでは、月の光の下キラキラ輝いてカラフルだった世界が、突如、色褪せたように感じた。
半分は期待した自分に呆れて。
半分はがっかりして。
肩を落として、部屋に戻ったことを。
何度も振り返って帰ったことを。
駅から来る人に目を凝らしながら帰ったことを。
蓮は、思い出した。
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