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エレベーターのボタンを押そうとして、蓮の動きが止まった。
とても重要な問題に、気が付いた。
あれ?
やだ…。
私、慶太郎の部屋番号…知らないじゃない…。
蓮のさっきまでの勢いは、引き潮のように体の奥へと消えていった。
楽しみにしていた遠足が雨で流れてしまった子供のような、そんな少しだけ寂しげな気持ちがジワジワと湧き出してきた。
驚かそうと思ったのにな…。
残念な気持ちを持て余しながら、スマホを取り出した。
谷中 慶太郎。
その文字にそっと触れた。
慶太郎にプライベートの番号を教えられたあの日から。
この名前に触れるたびに、切なくて胸が締め付けられた。
この名前に触れることは、とても特別な事だった。
胸が苦しくて切なくて、いつも触れた後は何度も深呼吸した。
普段通りに話せるように、ちゃんとビジネスライクに話せるように。
いつもいつも。
自分の気持ちを落ち着かせて、呼び出し音に耳をすませていた。
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