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「…………別にいい」
「え……」
今、別にいいって言ったような気がする。それともわたしの願望かな。
聞き間違いかと思ったのに、つないだままの手に戸惑う。
指先をたどって順に視線を上げて、表情をそっと見ると、凪いだ瞳とかち合った。
静かな目に、押し込めて平坦にした熱量を見つけた気がするのは、ただわたしがそう望んだからに違いない。
期待しているからに違いないんだ。
「俺は佐藤さんと手をつなぐの、別に嫌じゃない。だから謝る必要ないよ。……その、もし佐藤さんが嫌じゃないなら」
珍しく饒舌なそうちゃんは、ぽつりと許可をくれた。
なぜつなぐのかとは聞かれなかった。
もし聞かれたら、幼なじみだからなんて言おうとしていたけど、やっぱり不自然だし悔しいし、聞かれなくてよかった気もする。
「汗かいても笑うなよ」
手をつないでいてもいいんだ、とようやく実感が出てきて、いじけたそうちゃんに破顔した。
「笑わないよ。お互い様だもん」
「そ。ならいい」
ふてた声音がおかしい。口がへの字になっている。
ふふ、と笑いがこぼれて、確かめるみたいに手を握ったら、つながれたままだったそうちゃんの手が、少々強引にちょっぴり浮いて、収まりよくずれて、もう一度握り直された。
「こっちだろ」
甘い恋人つなぎに、くそう、と思った。
手を引かれていたあの幼い頃とは違う、高校生になってからの、もう数年ぶりの、初めての恋人つなぎ。
……恋人じゃ、ないけど。
「……うん」
手を見て。気恥ずかしくて。
そっと顔を上げて、目が合って。気恥ずかしくて。
つい、と二人で視線を外した。
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