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ねえ、そうちゃん。やっぱりそうちゃんはずるいよ。
今のは完全に不意打ちだった。
困るってなんでって聞きたい。赤い理由を知りたい。
……ああでも、むしろわたしが返り討ちに遭いそうだからやめておこう。
ぎゅっと強く握られた手には、やっぱり汗をかいている。お互い様だけど、速い心音が伝わってくる。
ふてたように横を向くそうちゃんに、どんどん加速する鼓動がうるさい。
「……さとーさんのあほ」
いじけた小さな声音に、笑みがこぼれて。そうちゃんが好きだなあと、何度も何度も思ってきたことをまた思った。
……思いを重ねる度に、好きを更新する度に、ときどき不安になるんだ。
この思いは、いつになったら消えちゃうんだろう。
わたしはいつになったら忘れちゃうんだろう。
わたしはそうちゃんが好きなことを、そうちゃんが好きだったことを、覚えていたい。いつまでも。ずっと。
本当は日記を書くとかメモを取るとか、何か形に残したらいいんだと思う。
でも、一旦わたしの言葉で書いちゃったらずっとそのままなんじゃないかって、怖い。
わたしの脳がわたしの言葉につられて思い出を美化してしまいそうで、それくらい好きな自覚はあって、不安になる。
消えてしまわないで。
歪んでしまわないで。
薄れてしまわないで。
わたしが覚えていられる限りでいいから、この手からこぼれなかった思い出たちは、元の綺麗なままがよかった。
そうちゃんがくれたものは、切なさや恋情や苦しさが付随しても、そのまま、何も混ざらないまま、そうちゃんがくれたものであって欲しい。
静かな夕焼け色の帰り道は、きっとわたしの青春そのものだから。
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