1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ

 ぎらぎらと、真夏の太陽が照り付ける。 雲ひとつない青空に一番近いこの場所で、紫外線が肌を髪を焼き、ゆっくりと私を殺して行く。 けれど私の心臓はどんどん速く、どんどん強く鳴っていた。 もうすぐあの子が やって来る。 「勇気ひとつを友にして」という、古い童謡を口ずさんでみる。 その歌をどこで耳にしたかもう覚えていないけれど、私はギリシャ神話をモチーフにした、その悲哀を孕んだ旋律が好きだった。 図書館で「イカロスの羽根」の逸話を読んだ。 歌の解釈と随分異なっていたし、父の忠告を無視して命を落とすイカロスは、勇者ではない愚か者だったけれど、私はそんなイカロスに憧れた。   私もイカロスみたいに成りたい。 そうしたら、 次はどんなあの子が見られるだろう。 萎れた向日葵みたいに立ち尽くして嘆く姿。 地面に落ちた蝉みたいにもがき、喚き散らす姿。 夕立みたいに泣き叫ぶ姿。 稲妻みたいに怒り狂う姿。 背筋に走る感覚に酔って、私はしばらく自分を抱き締めて震えていた。 夏の風が渡ってゆくのが見える。 私を見つけて手を振っている。 あの風にのって遠くへ行きたい。 あの子を拐って どこかへ行きたい。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!