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序
ぎらぎらと、真夏の太陽が照り付ける。
雲ひとつない青空に一番近いこの場所で、紫外線が肌を髪を焼き、ゆっくりと私を殺して行く。
けれど私の心臓はどんどん速く、どんどん強く鳴っていた。
もうすぐあの子が やって来る。
「勇気ひとつを友にして」という、古い童謡を口ずさんでみる。
その歌をどこで耳にしたかもう覚えていないけれど、私はギリシャ神話をモチーフにした、その悲哀を孕んだ旋律が好きだった。
図書館で「イカロスの羽根」の逸話を読んだ。
歌の解釈と随分異なっていたし、父の忠告を無視して命を落とすイカロスは、勇者ではない愚か者だったけれど、私はそんなイカロスに憧れた。
私もイカロスみたいに成りたい。
そうしたら、
次はどんなあの子が見られるだろう。
萎れた向日葵みたいに立ち尽くして嘆く姿。
地面に落ちた蝉みたいにもがき、喚き散らす姿。
夕立みたいに泣き叫ぶ姿。
稲妻みたいに怒り狂う姿。
背筋に走る感覚に酔って、私はしばらく自分を抱き締めて震えていた。
夏の風が渡ってゆくのが見える。
私を見つけて手を振っている。
あの風にのって遠くへ行きたい。
あの子を拐って
どこかへ行きたい。
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