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そしてまた、花は咲く
蕾がようやく芽吹き始めた深夜、私がたたずんでいると一組の男女が姿を現した。
若いカップルのようだがどうやら揉めているらしい。
女性は何やら一方的に男をののしっているが、残念、私には何を言っているのかわからない。
しかし、男が女性の言葉にイラついていることは一目瞭然だった。
二人は足を止める。女性がさらに責め立てるが、男はやはり何も言い返そうとしない。
そうした態度に業を煮やしたのだろう、女性は男の頬に平手打ちを喰らわせた。
ばちーんと痛烈な音が闇夜に響く。
それでも黙る男。
刹那、男は力ずくで女性を押し倒し強引に唇を奪った。そのまま女性の服を剥ぐとあらわになった胸を弄る。
必死に抵抗する女性。
だが男の唇が女性の首筋に触れるとそれは短い悲鳴へと変わり、やがて女性は動かなくなった。
それからどれだけの時間が経過しただろう。
男は消え、あたりは静寂の闇に包まれていた。まるで何事もなかったかのように。
ただ、時折吹き付ける突風に木々はざわめき、塵芥が力なく虚空に舞い上げられた。
やれやれ。
手荒な真似はするなとあれほど言っておいたのに。
まあいい。
役目は果たしてくれたし、おかげで欲しいものは手に入った。
これで私も他の桜に負けない、紅い花を咲かせられる。
蕾がようやく芽吹き始めた桜の木の根元で首から血を流して倒れていた全裸女性の姿は、もうそこにはなかった。
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