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序幕
少し固めだった肉を苦労して切り、下味を整える。比較的柔らかいと思っていたが、思ったよりも苦労した。後は臭みを取りたいが、どうすればいいだろう?
ニンニクを摩り下ろし、適当に味付けをしてからフライパンに寝かせ、蓋をした。ステーキと呼ぶには少々不格好な形になってしまったが、仕方ない。
あぁ、こんな料理でも、彼は満足してくれるだろうか?
素晴らしい彼。素敵な彼。汚れた、他人から蔑まれて生きるだけの筈だった私を拾ってくれた彼。ちょっと強引だけど、そこが魅力的な彼。そんな彼の力になりたい。これからずっと尽くしてあげたい。身を捧げたい。例え私がどんな事になっても。
背伸びをして食器を棚から出していたところで、階段から彼が下りてくる足音が聞こえた。私は満面の笑みを浮かべ、背伸びでめくれたシャツから覗く青痣をエプロンで隠し、彼に挨拶をした。
「おはよう!」
「……何、作ってんだ?」
「食べたいって言ってたあのお肉、小分けにして残りは今夜カレーで使おうかなって!」
言うと、寝床にまで持っていっていたマグカップをキッチンの流しに投げつけ、彼が怒鳴った。私は突然の事に萎縮して、体を縮めこませる。
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