愛惜のはじまり

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「どうしちゃったのよ、急に黙り込んじゃって。あ、もしかして私と離れるのが名残惜しい?」 自分の気持ちを誤魔化すように彼の背中にわざと茶化す。 「……そう言うお前はどうなんだよ。名残惜しくないのかよ?」 彼が足を止めて振り向きざま、いじけたように口を尖らせる。 「ぇっ……。ぁっ、や……まあ、少し位は……」 しどろもどろの返事に、どうか私の気持ちがダダ漏れていませんようにと祈るばかり。 彼の真っ直ぐな眼差しに、私は居心地悪く指先をいじる。 少し位なんて、本当はウソ。 すごく、すっごく名残惜しい。 でも、どうにも出来ないじゃない。 私はぎこちなく笑い返した。 それを見ることもせずに彼がプイッと顔を背ける。 急に無口になったと言うよりも不機嫌になった、が正しいように感じた。 お願い。 最後くらい、こっち向いて……笑い掛けて。
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