Anniversary

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 誰もが彼を遠巻きに見つめ、だが、おいそれとは声ひとつ掛けられない。  そんなふうだから羨望の視線を向けられながらも、この男はいつも独りっきりでカウンターに腰掛けている――という印象が強い。  誰としゃべるわけでもなく、ただおとなしく雑誌等に目を通しては、気に入りの酒を静かにたしなむだけだ。  ごくたまにマスターと話をしながら垣間見せる笑顔に、いったい何人の男が釘付けにさせられたことだろう、そんな想像をしながらかくいう俺自身もそいつらと一緒になって遠巻きにこの男を見つめるだけだったのには理由があった。  自慢するわけじゃないが、俺は自分の容姿には自信がある。と、こう言えば既に自慢そのもの、嫌な野郎だと思われもするだろうが、実際このバーでも相手に不自由したことがない。  面構えは北欧風の人形みたいだとよく言われ、その甘いマスクに釣られて声を掛けてみたんだけど、などと近寄ってくる連中がゴロゴロといるのは確かだ。  加えて俺は滅法愛想良しときている。  人見知りという経験は殆どしたことが無い上に、誰とでもすぐに打ち解けられる気軽な話術は我ながらの長所、これだけは胸を張って堂々自慢に値する代物だ。
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