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結 清水 空
でもおかしい。だって私の知る母は写真の中だけなのだから。会えるはずがない。
自分の目がおかしくなったのではないかと袖でごしごしとこすり再び視線を戻すとそこにお母さんの姿はなかった。でも、お母さんのいたところに光るものを見つけた。
寄ってみるとそれは失くしたはずのロケットだった。まだ赤ちゃんだったころの私を抱き上げた微笑むお母さんがはまってる、私にとっては一番大事な宝物。
これを持っていることを継母はいい顔せずどこかに投げ捨てられたそれが今目の前にある。
写真の中のお母さんの顔がどこか悲しそうに見えた。それをみて私はまるでダムが決壊したように泣き崩れた。
そうだよね。今の私じゃあお母さんを悲しませるだけだよね。これ以上天国のお母さんを悲しませないようにしないと……。
そう決心した私は貢がせたものを見つけだしそれを手に新たな道を歩き出した。
桜の花びらが黒く光沢のある石の前を舞い落ちる。
もくもくと上がってくる線香の白い筋を見上げ私は感傷に浸っていた。
「お母さん。私ね、変われたよ」
あれから私は貢物を全て彼たちに返して別れ、暴力をふるってくる継母とは話をつけて必死に勉強の末、単身東京の大学に進学した。
そして……。
「おーい。いつまでそこにいるんだー」
「ママ! お家に帰ろう!」
「はいはい。もう袖を引っ張ったら伸びちゃうじゃない」
お母さん、またくるね。
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