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 ゴト。  運搬用のケースはどんなに注意を払っても、床に置く時には重たくて鈍い音が鳴る。長方形のケースの中には、500mlの紙パックがぎっしりと詰まっている。一ケースの総重量は考えたことがない。控えめに流れる有線放送のJ-POPナンバーに半分気を取られながら、結露にうっすら濡れた紙パックを掴む。そんなにてきぱき動かなくたってどうせ、監視カメラの映像を監視する目もない夜のコンビニ。今日みたいな週のど真ん中に深夜のシフトに入っているのは二人きりで、陳列棚の向こうにちらりと見えるレジ番の後輩も、客が切れたタイミングで大欠伸をしているところだ。  ……お、売れてんな。  心の中で呟きながら確認するのは、陳列棚のすき具合。予想以上に減りが早い季節限定の紅茶は、この調子なら発注個数を増やしても間違いないと考える。これから暑くなってくるし、何故か女の子はこのメーカーのフレーバードティーが好きなのだから。  待遇は単なるバイトだが、専門学生時代から四年近く働いていれば、すっかり深夜帯のチーフ扱いだ。この、生活できればいいだけのフリーター稼業にも、別段不満はなかった。 「いらっしゃいませー」  自動ドアが開くのに先に反応したのは、レジ番の後輩だ。 「いらっしゃいませー……」  後輩に続いて、声を出す。語尾が曖昧になるハキハキしない喋り方だと、自覚症状はあるのだからどうか許して欲しい。
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