三年後も、四年後も

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 数時間前のざわめきが、嘘のように静まり返った教室。窓の外は、しとしとと冷たい雨が降り続いている。  窓際に立ち、少し開いていた窓を閉めると、大げさなため息とふざけたような声が背中に聞こえた。 「なーんでだよぉ、香子(かこ)ちゃん。俺、今日、高校卒業したんですけどー」  一年間使った教室の、最後の点検に来た私。生徒はもう、一人残らず帰ったはずだと思っていた。それなのに――。  窓の鍵をきちんと閉め、私はゆっくりと振り返る。  机に腰かけ、そばにある椅子をガタガタと蹴飛ばしている生徒は、藤野直斗。この教室で私が受け持っていた生徒だ。 「藤野くん。ふざけてないで、早く家に帰りなさい。それから椅子は蹴飛ばさない」  私はそう言うと、机の上に無造作に置かれている筒を手に取り、彼の胸元に押し付ける。 「大事な卒業証書。忘れないでね」  足を止めた彼が、むすっとした顔でそれを受け取る。私は表情を変えないまま、そっと視線をはずす。  雨の雫が流れる窓の外に、桜の木が見えた。この学校で一番大きなその木に、まだ花は咲いていない。
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