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「じゃあ、いつになったら付き合ってくれるんだよ? 香子先生」
顔をそむけたまま、小さく息を吐く。
「無理です」
「その返事は聞き飽きた」
「いつになっても無理です」
「彼氏いないくせに」
顔を向け、彼のことを睨みつける。そんな私を面白がるように、にやっと笑う私の教え子。腹が立つ。
「そうね。私に彼氏はいないけど、藤野くんには彼女が大勢いるんでしょうね」
ちょっと意地悪く言ってやる。
「は? 彼女なんかいないって」
「あら、いつも女の子に囲まれてるから、彼女のひとりやふたり、いるのかと思ってたわ」
教室でも、廊下でも、校舎の外でも。女子生徒と一緒にいる彼の姿を、私は何度も見ていたから。
またむっとした顔つきになった彼が、机から降りて私に近づく。
「先生。もしかして妬いてんの?」
「ばっ、そんなわけないでしょ!」
「あ、赤くなった」
私を見下ろすようにして、ははっと笑う彼。コロコロと変わるその表情に、振り回されているのは私のほうだ。
「とにかくさっさと帰りなさい。こんな時間まで残ってる生徒は、あなたくらいよ」
そう言って、一歩踏み出した私の行き先を、彼がふさぐ。
「いつになったら付き合ってくれるか、ちゃんと返事してくれるまで帰らない」
「いい加減にしなさい」
「香子先生」
甘ったるい声でそう呼ばれ、条件反射のように顔を上げる。目の前に立つ彼と視線がぶつかり、あわててまた外を見る。
「俺、三年間ずっと、先生のこと想ってるんだけど?」
知ってる。うんざりするほど、その言葉を聞いてきたから。
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