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「こんなに想われてるんだからさぁ。いい加減素直になりなよ」
私は窓辺を見ながら、もう一度ため息を吐く。
「藤野くん」
「はい?」
かすかに聞こえる雨の音。
「あなたはまだ、狭い世界しか知らないの。大学に行ったら……東京に行ったら、もっと広い世界を知ることになる。いろんなものを見て、いろんなことを聞いて、いろんな人と出会って。そうしたらきっと、私のことなんか忘れられる」
そう。彼は四月から東京の大学生。この狭い町を出て、もっとたくさんの人と出会う。
希望に満ちた彼の未来に、八歳も年上の女なんて必要ない。
「きっと素敵な彼女もできるわよ。楽しみね」
窓の外を見たまま告げる。私の教え子に。教師として。
「卒業……おめでとう」
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