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家に母を送り届けると、私はもう一度外へ駆け出した。
何人かの学生たちとすれ違いながら、息を切らして走る。
なにを必死になっているんだろう。いい歳して……馬鹿みたいだ、私。
やがて見えてきた見慣れた校門。私は迷わずその中へ駆け込む。
校舎から出てくる人影はなく、グラウンドでも部活動をやっている気配はない。
いるわけない。いるわけない。誰もそんなところに――。
空からふわりと花びらが舞う。目の前に見える満開の桜の木。あの教室の窓から見た桜の木。その木の下に立つ、スーツ姿の男のひと。
「あっ……」
勢い余って転びそうになった私の体が、大きな手で受け止められる。
「大丈夫?」
聞き覚えのある声。ううん、毎日たしかに聞いていた声。
「大丈夫? 香子先生」
顔を上げると、懐かしい笑顔が私の前に広がった。
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