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「俺はもう仕事に行く。チカ、おまえも今日朝から大学あるんだろ。サボらずに行けよ」  靴下を履かせ終えると、瑛人は立ち上がる。シャツの背中が遠ざかって寂しくなる。 「サボらないよ。瑛人と同じ仕事に就くために頑張ってるもんね」 「だから何で俺と同じ仕事に就くんだよ。自分に合った仕事を探せ」  上着を羽織る姿を見つめていた千景(ちかげ)に呆れた声で諭してきた。  同じ仕事に就いて何が悪い。配属はまあ、同じところにはならないかもしれないけど、でも瑛人の仕事を理解できるし、話題にもできるし、いつかは仕事上接触があるかもしれない。  それを想像するだけで嬉しい。 「合ってるから大丈夫大丈夫」  瑛人の背中をぽんぽんと手で叩き、玄関までついていく。 「いってらっしゃい。早く帰ってきてね」  新妻のようににっこり笑って見送ると、またもや冷ややかに見据えられたけれど、 「いってきます。早くは帰れないからな」  と挨拶を残して瑛人は出勤していった。  いつもの朝の光景。  うーんと両手を天井に向けて伸ばし、千景は着替えの続きをする。  ウォークインクローゼットから引っ張ってきたジーンズを履き、長袖Tシャツを着てから気づく。あれ、これめちゃくちゃ袖が長い。あー瑛人のか。間違えたのだとわかって脱ぎ、洗ってあるので匂いがついているわけでもないのに瑛人の服にそっと頬を寄せてみる。
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