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「靴下が履けない」
そうぼやくと、醒めた視線を向けられる。
多分、鬱陶しいとか甘えるなと思われている。
それがわかっていたけど、じっと見つめ続けることによって観念したのか、ついにはこちらまできて、靴下を履かせてくれる。
成人男性が成人男性の靴下を履かせてやるという行為が普通でないことはわかっている。
いくら天然だの馬鹿だのぼーっとしているだの言われる頭でも理解している。
それでもそうしてもらえることがとても嬉しくて、にこにこしていると愚痴られてしまう。
「もう骨折は治ったんだろ。いつまでこんなことさせる気だ」
左手が骨折していた。治った。二週間前にギプスは取れた。それなのに何故介助させられるのかと彼は不満を持っている。
「瑛人が兄貴だから」
「それがおかしいんだろ。小学生の兄弟ならまだしも、デカい図体した大人にやることじゃない」
デカいだろうか。割合他人から華奢だと言われることが多いのでそうだと思っていたけれど。
兄の瑛人の身長は軽く百八十以上あるから、確かにデカい。こちらはというと、百七十くらい。
同じ兄弟でも随分差があるものだ。
いや、実の兄弟ではないからそれは当然なのか。
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