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 その日大学で講義後にゼミの集会があり、大講義室へと行くと、通りすがりにくすくすと笑う声がした。自分が笑われているように見えたけど、気のせいだろうと思っていた。  するとおまえのことだと言わんばかりにあからさまに指さししてきた。別のグループの男四、五人はこちらと目が合うとげらげら笑っている。  一体何のことだろう。時々変な寝癖がついていたり、昼食の米粒を頬につけたまま歩いていたりして笑われることはあるけど、大概は親切な人間が教えてくれる。  今回は遠巻きに笑われ、ひそひそと陰口めいたものを言っているように見える。  つまり不快だった。 「何だー? 千景のことみんな見てねえ?」  それに気づいた今本が不審がってぼやいた。彼も原因がわからないようだった。  こちらをちらちら窺う女子二人組を捕まえると、今本が彼女たちに何があったのかと訊ねてくれた。 「いや、わたしたちもよくわからないんだけど、矢田くんが波瀬くんのことを色々言ってるみたいよ」  原因が矢田だとは思わなかった。彼は千景に何かとべたべた接近してきて誘いをかけてくるものだから、どちらかというと好意的なのかとばかり思っていたのに。 「色々って何?」 「えっとー波瀬くんがホモなんだって」  ホモ?
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