57人が本棚に入れています
本棚に追加
【17】好きだから
「…純くん…よく見ろよ。
俺はその人とこういう関係なんだ」
華井は宇佐見の目の前に立った。
その赤い跡は新しいものから、消えかかっているものまで様々だ。
「…酷い…」
宇佐見は思わず華井を抱きしめた。
「いくら涼が好きだからって、ここまでする必要あるか?
こんなの…涼が自分以外の前で裸になれないようにしてるんだ…」
「…純くん…」
まさか…
宇佐見は嫌な予感がした。
宇佐見は華井の細い腕を掴むと、寝室に連れて行った。
ベッドに寝かせると、華井は不思議そうに宇佐見を見た。
「…純くん?なにする…」
華井が言い終わらない内に、宇佐見は華井のベルトを外し、デニムパンツと下着を一気に下ろした。
華井自身の周りにも赤い跡は残っていた。
だが宇佐見にとってそんなことは予想の内だ。
宇佐見は華井の身体をうつ伏せにした。
「純くん!やめろ!」
華井の抵抗など、宇佐見がちょっと本気を出せば何と言うことも無かった。
宇佐見は華井の尻を両手で割った。
そこには赤く腫れ上がっている蕾があった。
「涼…」
宇佐見はそっと蕾に触れた。
「…平気。痛みなんて無い…」
華井は小さく呟いた。
宇佐見はそっと裸の華井を背中から抱きしめた。
「涼…お兄さんにやられたんだよな?」
「……」
「花火大会の日、俺に会いに来てくれたから…。
こんな目に遭ったのか?」
「…俺は…嫌じゃ無いから…」
「涼…?」
「俺は兄貴が好きだ。
兄貴がすることなら何だって受け入れる。
兄貴だって俺を傷付けるような真似は絶対しない。
痛そうに見えるかもしれないけど…そんなこと無いから」
「涼…何で…何で…」
宇佐見は華井の身体を反転させると、正面から抱きしめた。
「理由は言えない。
兄貴と約束してるから。
純くん…理解出来ないだろ?
兄貴と肉体関係があるなんて幻滅しただろ?
もう俺なんか好きでいるなよ。
純くんなら幾らだって相手に困らない。
そうだろ?」
「涼…俺は涼が好きなんだよ?
誰でも良い訳じゃ無い」
「…純くん…」
「それに涼だって俺を好きだって言ってくれた…。
どうやって諦めろって言うんだよ?」
「…純くん…でも…!」
宇佐見は華井の目を見て言った。
「涼、良く聞いて。
お兄さんさんは義理のお兄さんだ。
ハッキリ言えば赤の他人なんだ。
お兄さんと涼の過去に何があったか、俺は知らない。
でも…これから俺がその過去を塗り替えるから」
「…無理だ…」
華井の瞳に涙が浮かぶ。
「やってみなければ分からない。
だから…涼を好きでいさせて…」
「…純くんがきっと傷付く…」
華井の瞳から涙が一粒零れ落ちる。
「涼のためなら…傷付いても良いよ」
宇佐見は華井の唇にそっとキスをした。
そんなに酷いかな…
華井は風呂上がりの自分の身体を鏡で見た。
淳はたまに激しく俺を抱く…
でもそんなのもう馴れてる…
『いくら涼が好きだからって、ここまでする必要あるか?
こんなの…涼が自分以外の前で裸になれないようにしてるんだ…』
純くんが言ったことなんて考えたことも無かった…
「涼くん、風邪引くよ?
ボディクリーム塗ってやろうか?」
前野がやさしく後ろから華井を抱きしめる。
「…うん」
淳はやさしい…
初めて会った時から変わらない…
「ごめんね。
ちょっと夢中になり過ぎた。
痛くは無いと思うけど…大丈夫?」
前野の指が華井の後孔に触れる。
「平気。全然大丈夫」
「そう…。
でも今日は止めておこう。
その変わり口でしてあげる…」
「淳…」
華井の身体がシーツに沈む。
前野は華井の唇を塞ぐと、舌を差し込み歯列をなぞり激しく舌を絡める。
前野から送り込まれる唾液を、華井は喉を鳴らして飲み込む。
前野は仰け反る華井の喉に舌を這わせ、跡が付かないように慎重に吸い上げる。
前野は絶対に服で隠れる部分にしか跡を残さない。
それでも今夜は華井の身体に残した跡を気遣って、そっと鎖骨を舐めると胸の突起を口に含んだ。
「…ぁあ…じゅん…」
胸の突起も腫れている華井に、前野はあくまでもやさしく舌を絡める。
「は…ぁ…あん…や、あ…」
華井が焦れて身を捩る。
前野はそんな華井を宥めるように突起を舌で転がしながら、華井自身に触れる。
そこは緩く立ち上がり、うっすら蜜を滲ませていた。
前野は胸の突起から唇を離すと、華井自身にねっとりと上下に舌を這わす。
「ああっ…いい…ぁ…ん」
華井自身が十分硬くなると、前野は口に含んで激しくピストンし出した。
「あっ…だめぇ…イく…じゅんっ…」
華井が真っ赤な顔でイヤイヤをするように顔を左右に振る。
前野は華井自身の根元をギュッと掴むと、空いている手でゆるゆると扱く。
「涼くん…涼くんが好きなのは誰?」
「ああん…じゅんっ…」
「涼くんに触れていいのは?」
「じゅん…ね…も…イかせて…」
華井は涙をポロポロ零す。
「まだ駄目だよ…。
涼くんが抱かれてるのは誰?」
「じゅん…っ…お願い…もう…」
「涼くんは俺以外の人間とセックスできない。そうだね?」
華井は涙を零しながらコクコク頷く。
「ちゃんと言葉にして」
前野の扱く手が力を増す。
「じゅんだけっ…じゅんとしか、セックスできない…」
「涼くんは良い子だね。
イかせてあげる」
前野はそう言うと、華井の根元を掴んでいた手を離した。
そうして口に含むと喉奥に当たるように激しくピストンを再開する。
勿論、根元を扱くことも忘れない。
「ああっ…!だめぇ…イくぅ…!」
華井は前野の口内に白濁を溢れさせる。
前野は全てを嚥下すると、舌で華井自身を綺麗にしてやった。
華井が真っ赤な顔で涙を零しながら、肩で息をしていると、前野が華井を抱きしめた。
「涼くん…涼くんには俺だけしかいないよ」
甘い囁きが華井の耳に響く。
「…うん…淳しかいない…」
「涼くんの身体は…俺以外受け付けない」
「…うん…淳だけ…」
前野がやさしく華井の髪を撫でる。
その時、前野の起立した雄が華井の身体に触れた。
「…淳…俺がする?」
前野は驚いて華井を見た。
「涼くんは何もしなくていい。
俺がそう躾たでしょ?
急に何言って…」
「…ちょっと思っただけ…」
前野はぎゅっと華井を抱きしめた。
「涼くんは男に奉仕することなんて覚える必要無いんだ。
俺が全部してあげる。
自慰だってそうでしょ?
涼くんはただ俺の腕の中で感じてれば良いんだ」
「…うん…淳、ありがと」
「涼くん…愛してるよ。
何も心配いらない。
もうおやすみ」
前野が腕枕をしてやると、華井はすぐに寝息を立てた。
前野はその寝顔を見ながら、起立した自分自身に手を掛けた。
翌朝、前野はいつものように華井の唇にキスを落とすと、「行ってくる」と言って仕事に出た。
華井は前野が用意してくれた朝食に手も付けずに、またベッドに潜り込んだ。
淳はセックスする時、必ず繰り返す…
俺が淳しか受け入れないことを、俺に言わせるまでイかしてくれない…
もうずっと…初めて淳が俺に触れた時からそうだった…
純くん…
俺が自分から初めて好きになったヤツ…
淳は一緒にいるのが当然で…好きだと疑いもしない存在
でも…純くんは淳とは何かが違う
その何かが俺には分からない
俺の過去を塗り替えると言った
俺のためなら傷付いても良いと言った
でもな…俺の過去を知ったら、純くんはそんなことは言えなくなる
そして…俺を好きだと真っ直ぐな目でいう純くんを傷付けたく無いんだ…
純くんが好きだから…
「宇佐見、華井くんのシフト、大幅に変更になったの知ってる?」
宇佐見はバイト先のロッカーでそう声を掛けられて驚いた。
今日は涼と一緒のはず…
「まぁ華井くんだけが変更になったから、新しいシフト表は配られないみたいだけど、休憩室に貼られたシフト表見てみろよ?
華井くんのとこだけ訂正で真っ赤っか!」
宇佐見は手早く制服に着替えると、休憩室へと急いだ。
シフト表を見て愕然とした。
宇佐見と華井の同じ出勤日は一日も無かった。
それにバイトが殆ど揃う、忙しい金曜・土曜日にも出勤していない。
「華井くんさー特別扱いされ過ぎじゃね?
こんな急にシフト変更なんて普通有り得ないっしょ?」
バイト仲間が口で言う程気にする風でも無く、笑って言う。
宇佐見は何も言えなかった。
宇佐見はバイトが終わると、すぐに華井にラインした。
『シフト変わったんだ?何かあった?』
華井の返事は『俺の都合。意味は無いよ。』だった。
意味無いって…あんなにあからさまに俺を避けてるだろ…
そうトークしたいのを宇佐見は堪えた。
会うんだ…会って話しを聞く
ラインなんかじゃ本心は聞けない
『会いたい。いつ会える?』
宇佐見の再度のトークに、『俺も会いたい』ただそれだけが打たれてあった。
馬鹿だな…
傷付けたく無いって決めたのに
つい『会いたい』なんてトークしちゃった…
華井はラインを閉じた。
純くんに一度でも会ったら?
きっと…もう会わずにいられなくなる…
友達なんだから、会うことだって淳に正直に言えばいい
それでも…好きな気持ちは言えない…
純くん…純くんが羨ましいよ
俺を好きだって迷わず言える純くん…
俺も…好きだよ純くんが…
でもどうしても淳が好きなんだ
俺は淳しか…心も身体も知らないから…
純くん…純くんを知ったら…俺はどうなる?
華井はそれから宇佐見が何度ラインしても、『今は距離を置きたい』と繰り返すだけだった。
そして十日が過ぎた頃、バイト先のロッカーで宇佐見が着替えていると、先輩に「宇佐見、悪い!明日出勤変わってくんない?」と言われた。
宇佐見は特に予定が無かったので、「良いっすよ」と答えた。
「彼女との記念日忘れちゃっててさ~、激おこ!
殺されるかと思ったもん!
お礼期待しといてよ!」
先輩はホッとしたように言うとロッカーを出て行った。
明日…涼の出勤日じゃなかったけ?
宇佐見は期待を胸に、休憩室に貼られたシフト表を見た。
華井は出勤になっていた。
やっと会える…
宇佐見は明日が来るのが待ち遠しかった。
最初のコメントを投稿しよう!