消える

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 真夜中のコンビニは冷たい場所だ。2時間か3時間、もう少し早かったら、空気から違って感じられる。店の前にタムロしている連中もいるし、勤め帰りにその晩の食事を買っているサラリーマン風のオジサンもいる。雑誌を立ち読みしているアンチャンの背中も、こころなしか暖かい。でも、日付が変わってそうした人々がいなくなったら、一つの波が過ぎた後の静けさに覆われてしまう。同じ場所なのに、時間帯が変わるだけに、こんなに違うものかと不思議なくらいにひんやりとしている。客が少ないだけではない。バイト君の顔つきも、退屈そうにしか見えない。切り替えスイッチみたいなものがあるのだとすれば、店の中の空気、バイト君のしぐさ、そんな全部を省エネ仕様にしてしまっているのだろう。  その夜もまた空気は寒々としたものだった。客はおらず、レジカウンターの向こう側で腰を下ろしていたバイト君がニョッキと頭をつきだして多佳子の姿を確かめただけだった。多佳子もペーパーナイフだけ買って、すぐに部屋に戻ればよかったが、気が付くと雑誌コーナーの前に立っていた。  コンビニに入ると、いつも雑誌コーナーへ行ってしまう。用がなくてもそうなる。パラパラめくってみるだけでもレイアウトデザインのアイデアが刺激されるからだなんて、後付けの言い訳だ。そんなこと言うまえに、とにかく足が向いてしまうんだから仕方ない。習慣なんだろう(条件反射かも知れない)。今日だって帰宅する際に立ち寄っているから、並んでいる雑誌はあらかたチェック済みだ。それなのに、また来てしまった。それでもって意味もなくパラパラやっている。  ハッと目がとまるデザインはなかった。目新しい情報もない。店内では新発売の商品かなにかをPRするアナウンスが元気よく流れされている。誰も聞いていないのがわかっているだけに、その元気さがかえってそらぞらしい。アナウンスに耳を傾けるでもなく、雑誌の記事を読むでもなく、多佳子は何冊かパラパラやっていた。そうして、変わり映えしないなあ、そうつぶやいてからレジに向かった。  え?、なに?
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