雪に溶ける

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これじゃない、違う。 違わないけど今、こういう話をするんじゃなくて。 「……センセ?」 覗き込むように私を見る彼を、私も見つめた。 勝手にその手を振り払い、逃げた私を追いかけてくれた彼。 「お見合いは、しないわ」 元々そういう話がある、という程度の話だった。 逃げ出して、余計な事は考えたくなくて、だからその話に乗ってしまおうかなんて思ってしまっただけ。 弱い、女。 彼に手を伸ばす。その頬に触れて、愛しさを確認する。 「好きよ。だから他の人は選ばない」 彼は驚いた表情をした。私は顔を背けなかった。 伸ばした手の平から彼が零れ落ちた。 カクンと頭を下げてしまったと思ったら、握った拳を口元にあてて私から少し顔を逸らす。照れてるのがわかった。 そしてチラリと私を見た。まるで怒ってるような目をして。
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